1月下旬から2月にかけて緊急が増えてきました。やはり緊急手術が必要となるのは急性大動脈疾患である急性大動脈解離や大動脈瘤破裂の症例です。
当グループでの昨年度の急性大動脈解離(Stanford A型)の手術症例はちょうど50例でありました。
先日の緊急症例は、ER救急外来到着時には血圧70mmHg台のショック状態で、所見より直ちにCT施行し急性大動脈解離スタンフォードA型、心タンポナーデによるショック状態と診断され、当科に紹介となりました。
心タンポナーデとは。。。
心嚢という袋の中に心臓があるのですが、限られたスペースのため解離した血管より血液が浸みだしたりあるいは破裂により心臓の周りに血液が貯留することで心臓が身動きできなくなり、つまり拍動できなくなることで血液が送り出せなくなります。血圧は低下し、やがて心停止に至ります。同じ急性大動脈解離でも一刻も争う状態ですので直ちに各部署に連絡し、緊急手術の準備に入ります。
たとえ夜中であろうとも、手術室スタッフ、MEさんは本当に優秀で病気のことを理解してくれているので、『解離のショックだから至急準備お願い!』の一声で24時間いつでも準備してくれます。20~30分もあれば準備できますので、ある程度のめどがついたら手術室へ搬入し、麻酔導入と同時進行で準備します。
われわれは手洗いを済ませ、傍らでいつでも開胸できるように待機します。今回も手術室に搬入時には血圧はさらに50mmHgと低下。至急麻酔導入し、ライン類を挿入した時点で血圧が触知不能となり、脈も伸びてきたため直ちに消毒し、開胸、心嚢を切開したところ血液が噴出しタンポナーデが解除されると同時に、血圧が戻り心停止を免れました。
大概このような状態に陥る場合、大動脈は破裂(外膜の破綻)していることが多く、引き続き人工心肺の確立に入ります。この症例も上行大動脈中腹の肺動脈側に破裂(CTの→部分)しており用手的に圧迫しつつ人工心肺を開始し、その破裂部位の遠位側で幸い大動脈遮断ができました。
手術室の中であればこのような壮絶な展開は可能なのですが、救急搬送中や救急外来での待機中にこの状態となれば手立てはなく、天を仰ぐしかありません。ですのでいかに迅速に診断し、手術室に搬入するかが生死を分けると言っても過言ではない疾患であります。ここまで急を要する症例はたまにしかありませんが、急性大動脈解離のどの症例でもなりうるのです。
麻酔の先生も24時間いつでも飛んで来てくれます。本当に良い環境で仕事をさせて頂いているとつくづく感じますし、実際全員がそういう意識でないと特に緊急大動脈疾患の患者さんは救命できないのです。
当センターは24時間365日、一度も断らずやってきました。3人のスタッフでたとえ症例が重なろうとも常時対応しております。
手術ができる病院を探すだけで、無駄な時間を費やすのは賢明ではありませんが、そこで15分、30分と費やしてしますのが実情のようです。
急性大動脈疾患に対する迅速な対応は、当センターの使命の1つでもあります。”あと数分早かったら・・・” という思いだけは避けたい、そのための施設と思ってすぐに御連絡頂ければと存じます。
Dr.K
今週は急に寒くなったこともあり、急患の多い週となりました。予定の手術を含めると12件の手術がありました。
急性大動脈解離スタンフォードA型、David手術、オフポンプ冠動脈バイパス術、TAVI、腹部大動脈瘤人工血管置換術…
特に緊急の急性大動脈解離の手術は6件もありました。中には破裂寸前の切迫状態の患者さんもいましたが、皆さん無事に手術終了し、経過良好でございます。
この一年間で中堅、後期研修の若手の先生方の成長も感じられ嬉しく、また頼もしく感じます。
すでに6年目の後期研修の先生も、弁膜症の手術や急性解離の緊急手術など問題なく行っております。
われわれスタッフも常に進化をしていかないといけない一方、後身の先生方の指導、教育には更に改善、強化していきたいと考えています。厳しい世界ではありますが、グループとしてすべての医師が同等のクオリティーで手術ができるよう精進してまいります。
当グループでは心臓血管外科医として必要なスキル、手術手技だけでなく、一外科医としての姿勢を学んでもらいたいと常々感じております。手術手技の習得には、ある程度の器用さは必要ですが皆それぞれ努力しますので遅かれ早かれ力はつくものと思っています。それ以上に外科医としてチームを牽引し色々な状況下で瞬時に判断し、舵を切る能力が重要なのです。言わずもがな心臓血管外科治療は特にチーム医療で成り立っていますので多くのスタッフと協調し最大限の結果を出す必要があることは言うまでもありません。
果敢な研修医を常に募集しておりますので、熱い若手心臓血管外科医はいつでも見学に来て頂ければと存じます。
金・土曜と循環器科が毎年恒例の心臓カテーテル治療の鎌倉ライブデモンストレーションを二日間行いました。本日日曜日は第4回 TRENDが横浜で行われTAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)の最新のお話、活発な議論が行われます。
今年残りもあとわずかですが、引き続き全力で診療してまいります。
Dr.K
先週は予定でOPCAB(オフポンプ冠動脈バイパス術)1件、AVR(大動脈弁置換術)2件(うち1件は冠動脈バイパス術との複合手術)、弓部大動脈瘤に対して弓部人工血管置換術1件、TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)2件、EVAR(腹部大動脈瘤ステント留置術)1件ありまして、緊急手術で急性大動脈解離3件(上行置換術1件、弓部置換術2件)、感染性心内膜炎でAVR 1件の計11件の手術があり、まずまずの忙しさでした。この忙しさの中で後期研修の先生たちも多くのことを学び、経験し、確実に力をつけてきています。
先日の感染性心内膜炎(IE:Infective Endocarditis)の症例は侵された大動脈弁尖に付着した疣贅(ゆうぜい;vegetation)がフラフラと今にも飛びそうで、心不全兆候も強く、緊急での手術となりました。
感染性心内膜炎は先天性または後天性の器質的心疾患が素地となりその障害部位の心内膜(主に弁)に、何らかの原因(歯周病、歯科治療後が多いです)で血液中に細菌が入り込み、定着して発症します。100万人の人口当たり年間10~50例の発症と考えられています。なかなか診断がつかず単なる風邪とすまされたり、不適切な治療に時間を費やし合併症を起こしてから初めて診断されることが多いのが現状でもあります。
症状としては、原因不明の発熱、関節炎などが出現し、次第に塞栓症状や心症状を呈してきます。血液培養からの細菌検出と心臓エコーによる疣贅(vegetation)が証明されれば診断は確定します。この疣贅(vegetation)とは細菌が付着・増殖した後、フィブリン・繊維性組織によって取り囲まれて出来上がった塊りで、これが全身の至るところへ飛んでゆき塞栓症状を引き起こします。これが脳へと飛んで行けば脳梗塞を来してしまうのです。
基本的に急性期の手術適応としては、
①内科治療で管理困難な心不全
②抗菌約治療抵抗性の持続する敗血症
③反復するする塞栓症や可動性のvegetationの存在
④弁輪部膿瘍の形成
⑤真菌性心内膜炎
などであります。
通常長期の発熱、敗血症の持続などで、全身の衰弱が激しい状態での手術となります。弁に菌が付着し弁尖を破壊し、弁機能が維持できなくなってきます。さらに弁周囲組織(弁輪や心臓の筋肉)に感染、炎症が拡大、進展してくると弁輪部膿瘍や仮性動脈瘤の発生が30~40%に見られるようになり、心臓そのものの構造が破壊されてきます。こうなってくると非常に予後不良となってしまいます。原因となった菌の組織破壊性の強弱によりますが、どこまで弁尖・弁周囲組織が破壊されているかで大きく予後が変わってくるのです。心不全の有無も予後を大きく規定する因子となりますので、感染性心内膜炎の内科薬物治療中は注意深い観察が必要ですし、外科的治療が遅れないようにすることが肝要となります。
今回の患者さんは大動脈弁に今にも飛んでいきそう可動性の疣贅(vegetation)を形成し、弁逆流もⅣ度と最重症で心不全を呈していたため緊急手術となりました。
手術所見では、大動脈弁の3尖ともに疣贅(vegetation)が付着し、左冠尖に飛びそうな約2cm大の疣贅(vegetation)、無冠尖は穿孔(perforation)を来していました。幸い弁輪部への浸潤、破壊はなく人工の弁を縫着する弁輪部は保たれており、大動脈弁置換術だけで手術は終了となりました。
術後の経過は順調で、約半月も食事ができずほぼ寝たきりの状態でしたが、術翌日には食事も口にされ、リハビリで歩行訓練に入りました。ファーストトラックで早期の日常生活機能の回復、早期退院を目指します。
今週もVSP(急性心筋梗塞後の心室中隔穿孔)、MICS-MVR、OPCAB、上行置換術後の弓部・下行解離性大動脈瘤の手術など重症の患者さんも多く、気合い入れていきます!
Dr.K
週末からの連休は急性大動脈解離Stanford A型が2件、腹部大動脈瘤破裂が1件立て続けに救急搬送されました。
腹部大動脈瘤破裂は動脈瘤がやぶれた状態、つまり大動脈から血液が噴き出るわけですので、出血性ショック(後腹膜腔に大量出血)を伴っていることが多く、病院にたどり着けないことも多い病気です。診断がつきしだい救急外来かハイブリッド手術室で大動脈バルーンを破裂した動脈瘤の中枢で膨らませ、血液を流れないようにせき止めた後(これで動脈瘤の破裂部位からの出血を軽減させる)、急速輸血で一旦血圧上昇をはかり、引き続き開腹人工血管置換術にするかステントグラフト内挿術にするかを判断します。今回はステントグラフト内挿術で無事終了しました。
破裂での緊急手術死亡率は20%前後で施設によっては30~50%に達するところもあり予後不良です。破裂する前に治療できれば危険率1%前後ですので全く状況が違うということです。大動脈瘤は血管が風船のように膨らんだ状態をいい、正常径の2倍以上になると破裂の危険性が高くなります。
大動脈瘤は痛くもかゆくもなく基本的には症状がないのでなかなか診断に至ることが少ないのですが、他の病気でCT検査や腹部超音波エコーなどで偶然発見されることがあり、このような方は運がいいと言えるでしょう。
原因は動脈硬化ですので、①高血圧症 ②高脂血症 ③糖尿病 ④喫煙歴あり のうち一つでも当てはまる方は、一度CTの検査をされてもよいと思われます。CTは造影をしなくても大動脈瘤の存在はわかりますので検査自体はすぐに終わり、その日に結果もお伝えすることができます。
急性大動脈解離の症例ですが、今回も1例は解離腔による腕頭動脈狭窄が原因の脳虚血症状がある症例でありました。直ちに緊急手術を施行して、幸い麻痺などの後遺症もなく数時間後には抜管することができ、順調にリハビリを行っています。
動画は大動脈解離を起こした血管です。一部まだ解離していない部分がありますが、内膜から外膜を引っ張ればいとも簡単に解離していきます。解離とは内膜に亀裂が入り、そこから血液が流入しこのように内膜と外膜の間をその圧力で裂いていくわけです。
Dr.K
季節の変わり目や冬場に温かい場所から寒い場所に出たりなど、寒暖の差が激しくなってくると急激な血圧上昇を招き、急性心筋梗塞や急性大動脈解離などの発症につながります。
本日8/27は昨日に比べ気温が低かったらしく・・・。
湘南藤沢での外来中に、ERから急性大動脈解離Stanford A型の患者さんの紹介。
急性大動脈解離は血圧の急激な上昇により動脈硬化などで脆弱となった大動脈内膜に亀裂(entry)が入り、そこから血液が流入し3層構造の血管壁を裂いていきます(これを解離といいます)。血管が裂けるわけですから、激烈な胸痛、背部痛で発症します。
加藤茶さんもこの病気で九死に一生を得られたのは有名なお話です。最近では30~40歳代の方も発症し、救急搬送される方が多いのですが、なぜか若い方は重症の方が多いように感じます。
今回の症例は、開存型(解離腔に血流がある)で破裂の危険性が高く、さらにmalperfusion(臓器灌流不全)を伴っており、一刻を争う症例でした。
malperfusion(臓器灌流不全)とは、大動脈から分岐する血管(冠動脈:心臓、腕頭動脈~総頸動脈:脳、腹腔動脈や上腸間膜動脈:肝臓・脾臓・腸管など、腎動脈:腎臓、総腸骨動脈:下肢)が解離が発生することによりその解離腔で内腔が圧排され各臓器への血流が途絶えることにより合併します。このmalperfusionは、合併する方と合併しない方がいらっしゃいます。
ひとたび合併すると、心筋梗塞、脳梗塞、腸管虚血/壊死、下肢虚血など・・・となりさらに病態が悪化し予後不良となります。
湘南鎌倉に電話するとそちらにも急性大動脈解離(Stanford A型)の症例が救急搬送されたとのこと。
心臓血管外科スタッフを割り振り、双方同時に手術室ナース、人工心肺準備、麻酔科へ連絡し緊急手術の準備に入りました。
こちらは手術室からすぐに連絡があり、”15分後には手術室はOKです~” と・・・
素早い準備に、こちらも外来を急いで終わらせ手術室へ飛び込みました。
急性大動脈解離は、心タンポナーデ(心臓の周囲に染み出した血液により心臓が圧迫され心停止に至る)や破裂などにより手術室へたどり着けないこともある病気なのです。緊急手術を行わなければ48時間以内に50~60%の方は亡くなってしまいます。
ということは手術のできない施設に搬送された場合には、転院先を探している最中や、転送中に亡くなってしまうこともあるのです。
ですので診断がつき次第、特に破裂の兆候や心タンポナーデ合併症例、malperfusion合併症例などはいかに早く手術室へ搬入するかが生死の分かれ目となります。
幸い今回も、無事に手術室までたどり着くことが出来ましたし、手術も約3時間ほどで無事終了しました。
麻酔科、人工心肺技士、看護師さんなどスタッフの迅速な準備、協力の賜物です。
急性大動脈解離の手術死亡率は欧米では20~30%、日本では比較的成績は良好なのですがそれでも10%超える施設が多いのが現状です。さらにmalperfusionを来せば死亡率は跳ね上がります。
当院では今のところ死亡率0で皆さん元気に退院されておいでです。
今回の症例も上行大動脈に内膜の亀裂(entry)があり、腕頭動脈から右総頸動脈が解離腔により閉塞を来していました。意識消失もあり脳へのmalperfusionと判断しましたが、頸部エコーで右外頸動脈からのback flowで右内頚動脈へ flowが術前確認できたので右大脳半球広範脳梗塞が避けられた非常に幸運な症例でした。
術後2時間後には覚醒され、明らかな脳梗塞所見(四肢麻痺)もなくホッと胸をなでおろしました。
これからは緊急手術が増える時期でもあります。
当グループは24時間365日体制で診療にあたっております。当院救急車でのお迎えも可能です。手術を受け入れられる病院を探す時間は無駄ですし、それがどれだけ患者さんに不利益をもたらすことか・・・。そのような悲しい結末を病気のせいにだけはしたくないのです。
これからも死亡率0をめざしスタッフ一同、精進してまいります。
Dr.K
今日も残暑厳しく、湘南地区も35℃を超えたみたいです。
8月は季節的なものもあり緊急手術が少ない月でありましたが、湘南鎌倉では救命救急センターの承認もおり、また湘南外傷センターができたというのもあり救急患者の数が増え8月は約1200件もの救急車が来たとのことです。その中での今後心臓・大血管疾患での緊急を有する症例も増えてくるものと思われます。
昨日は近隣の市で講演を行ってきました。普段やっている医療講演とは違い、広めの公民館を使用させて頂き、早めの告知を行い多くの市民に我々のグループを知って頂くための講演を行ってきました。動脈硬化のお話から、虚血性心疾患・弁膜症・大動脈疾患について病気の話から最新の治療についてまで講演してきました。地域に根ざした医療から湘南地区、神奈川県下の多くの患者さんに最高の医療を提供できるように、更にこのようなかたちで啓蒙し、また精進していきたいと思っております。
今月はMICS症例が7例で、MICS-AVR 1例、MICS-MVR 3例、MICS-MVP 2例、MICS-VSD閉鎖 1例と比較的多い月となりました。スタッフもだいぶ慣れてきましたがまだまだ時間短縮できる要素はありそうです。一つ一つの手技を確実に行うこと、やり直しをなくすことなどは当然なのですが、術者以外の助手やスタッフはカメラの画面を見つつ糸さばきや展開などを介助し、次への先読みなど常に正中切開時と同様にまたはそれ以上に流れを意識し神経を使わなければqualityが損なわれます。そういった意味で術者も神経をすり減らしますが、周りのスタッフも熟練を要した助手、直介が必要とされるのです。
2013年5月31日
テーマ:湘南藤沢徳洲会病院
本日はAVR+上行・弓部置換術の手術がありましたが、それに合わせて2人の見学の方が来られました。一人は後期研修としての病院を検討されている先生、もう一方はすでにアメリカでの臨床経験も積まれてこられた先生で、お二人とも好感の持たれる素晴らしい先生とお見受け致しました。同じ志を持つものどうしで仕事ができれば素晴らしいチームとなることは間違いありません。
本日はMICS-MVR・TAPを施行しましたが、また色々と勉強になることが多くありました。おそらくリウマチ性と思われる弁の肥厚と交連部の癒合、腱索の短縮があり弁置換となりました。
心臓血管外科医を中心に麻酔科医も人工心肺技師も器械出し看護師も皆がbestなperformanceを発揮できるチーム作り、そこからの最高の医療を患者さんに提供することができるわけでそれを信念にやっております。各々がそこを目指して精進すれば自ずと道は開けると信じています。
明後日もMICS-MVP or MVRです。感染性心内膜炎で弁尖の状態にもよりますが、若い方なので弁形成でできればありがたいです。
Dr.K